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森保J。長友問題より深刻な南野問題。あの香川の二の舞を演じそうで心配になる

杉山茂樹スポーツライター
(写真;岸本勉/PICSPORT)

 選手交代5人制の中で行われる途中交代には様々な意味を含んでいる。監督はベンチに下げる選手をプレーの善し悪しだけで決めているわけではない。

 中国戦の後半13分、中山雄太と交代でベンチに下がった右サイドバック(SB)長友佑都の場合はどうだった。前々戦(ベトナム戦)、長友がベンチに下がった時間は後半18分。前戦(オマーン戦)は後半17分だった。交代時間は試合毎に早まっている。このペースで行くと次戦のサウジアラビア戦は後半10分前後になってしまうが、長友に対する世間の風当たりは、この出場時間に比例するように高まりを見せている。次戦、先発を飾るのは長友か、中山雄太か。焦点のひとつになっている。

 だが、そちらに関心が向けば向くほど他への興味は薄れる。長友を不動のスタメンとして起用し続けてきたのは森保一監督だ。長友を批判するならその前に、森保監督の見る目を追及しなくてはならない。長友という一個人が、スケープゴートにされているような気がしてならない。人間がうっかりしていると露呈させがちな、好ましくない気質を見せられている気がする。

 現在35歳。長友の馬力、切れ味、パンチ力が低下するのは当然だ。W杯本大会で36歳になる大ベテランの経験値を活かすために先発で起用するなら、そのフィジカル面での弱みをチームとして補う対策が不可欠になる。ところが森保ジャパンは、逆にそこが露わになる、長友には辛いサッカーを展開している。

 長友は左SBであるにもかかわらず右利きだ。左SBは可能ならば左利きを配置したいポジションだ。中国戦で伊東純也が決めた2点目に繋がる左足クロスを蹴った中山が、眩しく見える理由でもある。また、長友の前方で構える左ウイング、南野拓実も右利きだ。同様に南野も不動のスタメンなので、森保ジャパンの左サイドは、右利き2人が並ぶスタイルを定番にする。

(写真;岸本勉/PICSPORT)
(写真;岸本勉/PICSPORT)

 だが、南野は左ウイングであるにもかかわらず、左で構える時間が短い。サイドアタッカーらしからぬポジションを取る。文字通りサイドアタッカーとして機能している右サイドの2人、伊東(右ウイング)と酒井宏樹(右SB)と比較すれば、南野、長友の特異性は鮮明に浮かび上がる。

 縦方向へのベクトルは、右を10とすれば、左はせいぜい2か3だ。森保ジャパンを俯瞰すれば、左右非対称であることが一目瞭然になる。南野が中央に寄れば寄るほど、フィールドホッケーを彷彿させる、右に渦を巻くようなサッカーになる。フィールドホッケーは基本的に右から攻めて左で守る競技として知られるが、森保ジャパンは、このスタイルに酷似するサッカーを展開する。左サイドに右利きが2人並び、かつ右ウイングの南野は内に入りたがるポジションを取るその結果として、サッカーは右回転に陥るのだ。

 それはまさに左で守るサッカーだ。長友の弱点が露呈しやすいサッカーである。長友問題を語る時、これは見逃せないポイントになる。だが、森保ジャパンのサッカーが上手く行かない原因として、長友にばかりスポットを当てると、この構造的問題は見逃される。

 相手はそこに狙いを定めてくる。2014年ブラジルW杯の初戦で対戦したコートジボワールが、まさにそうしたサッカーで臨んできた。その時も左SBは長友だった。しかし、左サイドを狙われた責任は長友になかった。左ウイング香川真司が、対峙する相手の右SBをフリーにしたことが2ゴールを許し、逆転負けを喫した原因だった。

 香川も南野と同じ癖を抱えていた。左ウイングのポジションを離れ、真ん中で構える時間が長い。左サイドに適性がないことは明白だった。居心地のよさを求めて、ポジションワークを無視するようにふらふらと真ん中方向に移動していく。香川は右サイドでも適性を見いだせず終いだった。ストライクゾーンの狭さが、伸び悩んでしまった原因のひとつと考えられる。

 南野はどうなのか。左ウイング起用はミスキャスト以外の何ものでもない。本人以上に日本にとって好ましくない。では、適性はどこにあるかと言われれば、これまた難しい話になる。リバプールで時々、起用される0トップと言いたいところだが、ゴールを背にしたプレーならば鎌田大地の方が上だ。アタック能力でも勝っているとは言えない。南野の局面の打開力は思いのほか低い。4-3-3ならFWではなくインサイドハーフの方が適役と言いたくなるが、今日のインサイドハーフは、攻撃的MFと言うよりセンターハーフ的だ。守田英正、田中碧の方が適したタイプに見える。

(写真;岸本勉/PICSPORT)
(写真;岸本勉/PICSPORT)

 左ウイングに三笘薫が控えていることも、南野にポジション移動が望まれる理由だ。昨年11月のオマーン戦でA代表デビュー。実力の割にデビューが遅すぎた点、さらにはアタッカー陣の中では出場時間が最も少なかった東京五輪での起用法など、三笘と森保監督とは、良好な関係にあるとは言い難い。だが、オマーン戦で伊東純也の決勝ゴールをもたらしたウイングプレーが示すとおり、そのドリブルの能力は日本人選手の中では群を抜く。南野との比較ではもちろん、久保建英より破壊力は格段に上だ。

 南野は、ここ3、4年チャンピオンズリーグで優勝候補に挙げられるリバプールに所属する日本人唯一のチャンピオンズリーガーだ。現在、60名は存在するとされる欧州組の中で、出世頭にあたる。日本代表で10番を背負う理由だが、実際の力関係は紙一重だ。所属クラブの格は、断トツナンバーながら、出場機会はごく僅か。出場機会を求め、可能な限り早く移籍せよと言いたくなる微妙な立場にいることも確かなのである。

 断トツの日本ナンバーワン選手では全くない。だが森保監督は、南野を就任直後から迷うことなく招集し、スタメンで使い続けている。日本人ナンバーワン選手として扱っている。

 ドルトムントからマンチェスター・ユナイテッドへ移籍したものの出場機会に恵まれずにいた香川と、現在の南野が少々重なって見える。

 ザッケローニはそんな香川をスタメンで起用し続けた。マンチェスター・ユナイテッドに所属する日本サッカー界の出世頭を、スタメンから外すことはできないと考えたのだろう。しかし、その判断が2014年ブラジルW杯本番では仇となった。その穴を相手に狙い撃ちされた。

 森保監督と南野。両者の蜜月関係はいつまで続くのか。森保監督と長友の関係以上に気になる。

 ちなみに香川は、続く2018年ロシアW杯では、その直前まで最終メンバーからの落選もあり得そうな、ボーダーライン上にいた。辛うじて最終23人のメンバーに残ったものの、大会前は期待を抱かせる存在ではなかった。ところが、本大会では1トップ下として3試合に出場。まずまずのプレーを見せた。香川が及第点のプレーを見せたことが、日本がベスト16入りした大きな要因だとは筆者の見立てだ。まさに嬉しい誤算だった。香川が代表選手として及第点のプレーを見せたのは、いつ以来かと考え込むほど、予想外の出来事だった。

 だが香川はその後、再び失速。現在に至っている。南野はこれからどんな道を辿るのか。過大評価されていないだろうか。日本代表では、香川と重なる部分が多いだけに心配になる。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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