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募集停止・廃校となる大学は何が敗因か~16校の立地・データから分析した・前編

石渡嶺司大学ジャーナリスト
募集停止となった大学は何が敗因か、専門家がデータから分析(提供:イメージマート)

◆少子化だけではない募集停止

恵泉女学園大学の募集停止を受けて、先日、関連記事を出しました。

女子大氷河期サバイバル~私立女子大65校の未来像をデータから検証(2023年3月25日公開)

その前に、ヤフトピ入りした毎日新聞記事についても、コメントを入れたこともあり、しばらくメディア取材が続きました。

その中でよく言われるのが「少子化を理由としない専門家は石渡さんくらい」とのこと。

恵泉女学園大学はプレスリリースの中で少子化を理由にしています。

それを受けて、少子化だから募集停止となった、とするコメントが多くあります。

前記事でも出しましたが、恵泉女学園大学が募集停止となったのは少子化だけではありません。

いや、少子化が前提としてあることは私も同意します。しかし、それで終わらせるのは、募集停止の当事者はともかく、中立の視点を持つ専門家としてはちょっと情けない。そう思います。

経済評論家が企業倒産の理由を聞かれて「不況ですからね」で終わらせるでしょうか?

小・中学校教員や塾講師が児童・生徒の成績不振について「勉強しなかったからでしょう」で終わらせます?また、そういう説明で納得できますか?

不況であっても、倒産しない企業がある以上、もう少し踏み込んだ説明が経済評論家には求められるはず。

生徒・児童が勉強していなくても、そのうえでなぜ勉強に手が付かないのか分析することが小・中学校教員や塾講師の仕事であるはずです。

そもそも、少子化が理由で大学が募集停止になるなら、大学数はもっと少なくなっています。

1991年に18歳人口は204.4万人、大学数は514校でした。2022年には18歳人口は112.2万人。

もしも、少子化が理由で大学が募集停止となるのであれば、1991年の514校から半減していないとおかしいはず。

実際には、比例して減少するどころか、増加しています。2022年、大学数は807校でした。少子化とは逆比例して増えているのです。

しかも、2000年以降、募集停止となった私立・4年制大学はわずか16校です。

となると、少子化のみを募集停止の理由と分析するのは、専門家としてあまりにも無責任ではないでしょうか。まあ、他の方が何を話すかは知ったことではありません。少なくとも大学ジャーナリストの看板を掲げて21年の私としては、もう少し、実のある話をしたいところ。

◆廃校・募集停止16校を分析してみた

とまあ、偉そうにしておいて、何ですが、私はこれまで廃校・募集停止となった大学についての大局的な分析を今までしていませんでした。

言い訳しますと、これは私だけでなく、他の大学関連の専門家の方も同様です。個別の事例について、募集停止の背景を分析するコメントを出す、あるいは関連記事を出すことはあります。

ただ、募集停止が毎年のようにあればまだしも、実際は多くありません。そのため、私含めてメディアが廃校・募集停止校の大局的な分析をできないのは無理からぬところ。

なお、改めて確認したところ、2020年以降に体系的に廃校・募集停止の大学を分析した記事はありませんでした。

※2018年12月に、ニューズウィーク日本版サイトで「忍び寄る『大学倒産』危機 2000年以降すでに14校が倒産している」との記事が掲載されています。ただし、データが出ていない点や分析についてやや疑問な点があります。

と、言い訳しつつ、せっかくの機会なので、2000年以降に廃校・募集停止となった私立大16校についてのデータを集計、分析してきました。

以下の表について

・『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』(旺文社)の各年度版から筆者作成

・倍率は一般入試のもの

・偏差値は河合塾データで最高値と最低値の両方を記載。なお、入試形式により異なる場合がある

・偏差値で「BF」はボーダーフリーの状態を指す/「※」は記載なし

・「-」は参考図書に記載なし(大学側が非公表)

・「※」は未開設、偏差値は記載なしを示す

・充足率は入学定員充足率を指す(入学者÷入学定員)

・募集停止公表年の充足率について、太文字表記の大学は新聞等掲載の数値。細文字表記の大学は公表年の前年について参考図書記載の数値。なお、創造学園大学については参考図書とメディアで数値が異なるため、両論併記とした

・2004年と募集停止公表年の倍率で1.5倍以下の大学は、オレンジ表示、2.0倍以上の大学はブルー表示とした

・2004年と募集停止公表年の充足率で80%以上の大学はブルー表示、70%以下の大学はオレンジ表示とした

廃校・募集停止となった私立大16校一覧・その1

『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』各年度版を元に筆者作成
『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』各年度版を元に筆者作成

廃校・募集停止となった私立大16校一覧・その2

『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』各年度版から筆者作成
『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』各年度版から筆者作成

◆廃校・募集停止16校全てが小規模校

まず、明らかとなったのが小規模校という共通点です。

これは廃校・募集停止となった16校、全て同じでした。学部数だと16校中14校が単科大学(1学部のみ)、最大でも2学部の2校(創造学園大学、恵泉女学園大学)でした。広島国際学院大学は一時期、工学部、情報デザイン学部、現代社会学部の3学部体制でした。それを考えても、廃校・募集停止となった大学は小規模校が中心、という事実は覆りません。

小規模校は、学部数が少なく、その学部に学生が集まらなくなると、途端に定員割れとなり、経営難に直結してしまいます。

当初は人気でも、近隣に同系統の学部を競合校が新設すると、そちらに流出してしまうことも。

実際に、神戸夙川学院大学(観光文化学部)は開設後、5年間は順調に学生を集め、入学定員充足率も100%を超えていました。ところが、同じ観光系学部や学科・コースを他大学も開設するようになった結果、2012年から定員割れとなってしまいました(主因は後述しますが、大学の財政難)。

このように、小規模校は学部数が少ない分、大規模校よりも不安定になりやすいのです。

◆小規模校でもFランク寸前から復活した大学も

もちろん、小規模校の全てがダメ、というわけではありません。

私が以前、記事にした共愛学園前橋国際大学(国際社会学部の単科大学)のように一時期の苦境を脱して、地元で評価を確立する私立大学もあります。

Fランク寸前大学が全国5位大学に成長した理由~共愛学園前橋国際大学・学長インタビュー(2017年9月11日記事)

ただし、共愛学園前橋国際大学は記事にも書きましたが、学長含む教職員が相当な経営努力をしました。そうした結果があるからこそ、開学直後はFランク寸前にまで追い込まれながら成長していったのです。

共愛学園前橋国際大学サイトより。2010年代以降は群馬県内の公立高校教員が勧める私大として定着
共愛学園前橋国際大学サイトより。2010年代以降は群馬県内の公立高校教員が勧める私大として定着

そうした経営努力をしない私立大学の小規模校の未来は明るいとは言えないのではないでしょうか。

小規模校の生き残り策としては、共愛学園前橋国際大学のような教育改革と経営努力を同時に進めるか、あるいは規模拡大(女子大だと共学化を含む)か。それか、他大学との統合ないし廃校か。今後はこの三択のいずれかに収まるもの、と見ています。

◆募集停止の直前は充足率が低い

募集停止直前の入学定員充足率を調べたところ、追い込まれ型と先行損切り型に分かれます。

恵泉女学園大学の2022年・入学定員充足率は55.9%。60%未満の大学は恵泉女学園大学を含めて9校。ほぼ、同じ水準である60%台前半が1校。不明の福岡医療福祉大学を含めると16校中11校が充足率は低かったことになります。

この10校は、追い込まれて募集停止に至った、と言えるでしょう。

一方、70%台が2校、80%台が3校あります。この5校はまだやれたのでは、という気も。大学によっては、存続していた可能性もあります。

廃校・募集停止は充足率が全てというわけではありません。運営にあたる学校法人の財政状況などにもよるため、70%超の5校は大学の財政状況が悪かった、または将来を見越して損切りしたとも言えます。

この充足率からは、11校が追い込まれ型、5校が先行損切り型、と分類することができます。

◆地方型、不祥事型、都市型の3分類

立地・運営という点で分析していったところ、地方型、不祥事型、都市型に分類できました。

もちろん、いくつか重なるところもあるのですが、大別すれば、ということでご承知ください。

地方型

地方部に立地、需要の少なさから低迷

不祥事型

運営側の不祥事により低迷

都市型

都市部に立地、競合校の多さから低迷

本稿では、地方型3校、不祥事型3校の個別事例をご紹介していきます。

※都市型9校の個別事例と他の観点からの分析については後日公開する後編記事を参照してください

◆需要の少なさから募集停止・廃校に…地方型について

地方型

・立志舘大学

・愛知新城大谷大学

・三重中京大学

地方型は文字通り、地方に立地。需要の少なさから募集停止に追い込まれました。この地方型は3校が該当します。

立地が悪い、と言えば地方私大を想定される方も多かったはず。ところが、15校中3校しか該当しません。

◆卒業生を出さずに募集停止…立志舘大学

●立志舘大学(広島県)

開設:2000年(当時は広島安芸女子大学)

募集停止・廃校:2003年

学部:経営学部

立地:JR広島駅から30分圏内(呉線で5駅・16分の坂駅が最寄、同駅から400メートル)

解説:卒業生を出さないまま廃校となった、ある意味で伝説となった大学。それまで、卒業生を出さずに廃校となった事例は戦後の混乱期に久我山大学(1949年開設、1950年募集停止・廃校)があるだけでした。

立地は100万人都市・広島で30分圏内にあるので都市型とも言えます。

私が地方型としたのは、2000年開設当時、女子大(広島安芸女子大学)で経営学部。当時の時代背景を考えれば、地方だと女子の大学進学率が高くなく、しかも文学部や家政学部が人気だった時代です。そこに女子のみで経営学部はいくら100万人都市・広島といえど、ニッチ過ぎました。

学校基本調査によると、大学進学率の全国平均(現役生のみ)は34.9%。男女別だと男子40.6%、女子29.2%で大きな差がありました。

広島県・女子だと大学34.6%、短大18.9%。広島安芸女子大学は当時、女子短大を運営しており、こちらは好調でした。そこで、先を見越して4年制大学に昇格したのですが、まだまだ好調だった短大を見切るのは早すぎた、と言えるでしょう。

開設初年度から入学定員充足率16.4%と、超危険水域に入り、メインバンクだった広島信用金庫は即時廃校を勧めます。それを蹴って、救済に乗り出した専門学校経営者が融資資金の流用疑惑で取りざたされるあたり、後述する不祥事型に近い印象も。

2002年に共学化、立志舘大学となるも低迷したまま2003年に廃校、その後、学生を呉大学(現・広島文化学園大学)が受け入れました。現在は広島文化学園大学人間健康学部となっています。

◆「長篠の戦い」近辺で学生集まらず…愛知新城大谷大学

●愛知新城大谷大学

開設:2004年

募集停止:2009年

廃校:2013年

学部:社会福祉学部

立地:豊橋駅からJR飯田線で約50分、三河東郷駅から徒歩13分

解説:真宗大谷派の関係校で、公設民営方式で開学。ただし、開学当初から苦戦。

立地は愛知県の東三河地方にある新城市。愛知県民以外はどこか分からない方も多いのでご説明すると、織田信長と武田軍が衝突を続けた長篠城跡のある市です。

私も昨年、高校講演で訪問しましたが、のどかな郊外都市でした。

愛知県と言いつつ、岡崎以西(含む・名古屋市)からの学生はほぼ見込めない、豊橋市も厳しいところ。ターゲットとなる学生は豊川市など東三河地方にほぼ限定される地方部で、しかも社会福祉学部のみ。

いくら、高齢化社会に向けて福祉需要があっても、無理がありました。

さらに、福祉系学部は1990年代から2000年代前半にかけて学部新設が相次ぎます。そのうえ、社会福祉士国家試験の合格率が低い大学は敬遠されるようになりました。

愛知新城大谷大学は2008年の合格率が25.9%、福祉系大学平均の27.1%に肉薄し、健闘しました。

ところが、良かったのは初年度のみ。

2009年13.3%(福祉系大学平均27.7%)、2010年4.1%(同24.5%)、2011年4.5%(同25.9%)、2012年7.4%(同23.9%)と低迷します。これでは、受験生から敬遠される、その分、合格率が下がる悪循環に、はまったのでしょう。

跡地は廃止翌年の2014年に穂の香看護専門学校となり、現在に至ります。

◆楽天・則本の出身大学「まだやれた」との評も…三重中京大学

●三重中京大学

開設:1982年(当時は松阪大学)

募集停止:2009年

廃校:2013年

学部:現代法経学部(開設当時は政治経済学部)

立地:津駅から近鉄かJRで20分、松阪駅からバス・徒歩で22分

解説:存続年数から言えば4番目に長い。ただ、三重県、しかも、松阪市という郊外都市のそのまた郊外でよく持ちこたえたな、という印象です。

野球が強く、現在も活躍する則本昂大(東北楽天ゴールデンイーグルス・投手)らを輩出しました。

松阪市は中勢と言って、三重県内中部に位置します。このエリアには県庁所在地である津市を擁しますが、交通の便の良さから愛知県に通学することが可能。北勢エリアの四日市・桑名などはなおさらです。

2014年・日米野球第3戦で先発した則本昂大投手。出身の三重中京大は2013年廃校
2014年・日米野球第3戦で先発した則本昂大投手。出身の三重中京大は2013年廃校写真:アフロスポーツ

津市からはそこそこ、学生獲得を強く期待できるエリアは松阪市の他、南勢エリアの伊勢市・鳥羽市など。

それでも、2009年の募集停止時には入学定員充足率が77.5%。同時期に募集停止を決めた愛知新城大谷大学(33.0%)、神戸ファッション造形大学(35.0%)などのほぼ倍ありました。「まだ存続できたのでは」との専門家の意見もあったほどです。

ただ、その後の名古屋市など都市部への人口集中を考えれば、傷が浅いうちに廃校を決断できた、とも言えます。

地方立地と早めの見切り以外に募集停止となった要因としては学部名もあるでしょう。

2005年の校名改称(松阪大学→三重中京大学)は、いいとしても、開設当時の学部名を2000年に政策学部に変更。2005年には現代法経学部に再変更。

おとなしく、政治経済学部のままか、法律分野も学べるようにしたのであれば、経営学部と法学部に分割していれば、違う展開もあった気がします。

大学はその後、解体。2018年、跡地に三重県立松阪あゆみ特別支援学校が開設されました。

◆運営がまずかった不祥事型は3校

不祥事型

創造学園大学

LEC東京リーガルマインド大学

神戸夙川学院大学

立地ではなく、不祥事によって廃校となったのが不祥事型です。

上記3校が該当します。

◆尺八吹くだけの授業で初の解散命令…創造学園大学

●創造学園大学

開設:2004年

募集停止・廃校:2013年

学部:創造芸術学部(中山キャンパス)、ソーシャルワーク学部(八千代キャンパス)

立地:JR高崎駅からスクールバスで20分圏内

解説:立志舘大学と並び、廃校・募集停止となった大学の事例としてはよく挙がる大学。

学校法人堀越学園が経営していました。ただし、同名の学校法人が現存しており、こちらは芸能人が多数在籍していることで有名な堀越高校などを運営しています。全く無関係なのですが、現在もネットの一部では混同が見られます。

1981年設立の高崎短期大学と1992年設立の高崎福祉専門学校を前身として2004年に開設。初年度こそ定員を1人上回る281人が入学、滑り出しは悪くありませんでした。

しかし、その後は凋落の一途、入学定員充足率は2007年・39.3%、2008年61.4%、2009年・29.3%と超危険水域に。

大学運営も理事長と学長、理事などの間で対立が続き、2007年には大学教職員への給料遅配が始まります。

2009年には決算書類の虚偽を理由として、日本私立学校・振興共済事業団は2008年度の補助金交付を取り消します。さらに同年、群馬県教育委員会が県内の公立高校に、大学の財政状況の厳しさを理由に「合格者の手続きについては慎重に対応するとともに、他校への進学等についても検討するよう指導願います」との通知を出します。

意訳すると、「あの大学は危ないから進学させないように」との通知で、こうした内容の文書を県教育委員会が出すこと自体、きわめて異例です。

それだけ、創造学園大学の不祥事を厳しく見ていたことを意味します。

さすがに創造学園大学側も県教委に抗議、県教委はこれを受けて、内容を一部変えた文書を再送付します。

もっとも、この後も、東京地裁が大学キャンパスの仮差押え命令を出すなど、香ばしい展開が続きます。

付言しますと、当時、群馬県の高校で進路講演をした際は、終了後に進路指導担当教員が創造学園大以外に危ない大学はどこか、教えてほしいと聞いてきたことは今でも覚えています。

2010年には、留学生を大量に入れたのか、入学定員充足率は107.1%に。しかし、2011年は16.4%といつ廃校となってもおかしくない状態になります。

2010年には巨額負債を隠しての大学設立が判明、2011年には、理事長が3人辞任、高等教育評価機構が「不認定」、財務省が大学キャンパスの一部を差し押さえなど、どこをどうツッコんだものか、と悩むほど、不祥事を連発します。

2012年には、読売新聞が入学者ゼロで入学式が開催できなかった、と報じます(読売新聞 2012年4月6日朝刊「創造学園大 本校入学ゼロ」)。

一方、蛍雪時代臨時増刊『全国大学内容案内号』2012年版には同年入学者が42人とあります。読売の方は「本校」とあるので、創造芸術学部とソーシャルワーク学部の2学部を指しています。一方、この創造学園大学、2学部のキャンパス以外に宮城県、東京都など4カ所にもキャンパスがあり、そちらの学生ないし社会人学生・留学生の合算が『全国大学内容案内号』に掲載されたのかもしれません。真相はやぶの中であり、本稿では両論併記としました。

同年には電話代や電気代の未納により、一時、不通・停電となります。教職員の退職も相次ぎ、教授が購買部のレジ打ちをするなど世も末の状況に。

2013年3月、文部科学省は創造学園大学と専門学校、幼稚園に対して解散命令を出します。在学生がいる大学が解散命令を受けたのは史上初。

以上、この大学の解説だけでとんでもない分量になりました。これでも、まだ省略した方で、他にも、理事長が尺八を吹いて聞かせるだけの授業があった、とか、ネタは満載。

大学跡地は、一方が、たかさきナイチンゲール学院という看護の専門学校に、もう一方は、特別養護老人ホームとなっています。

◆「予備校と同じ」批判で…LEC東京リーガルマインド大学

●LEC東京リーガルマインド大学

開設:2004年

募集停止:2009年

廃校:2013年(学部のみ)

学部:総合キャリア学部

立地:JR水道橋駅から徒歩3分(千代田キャンパス)

解説:日本初の株式会社立大学です。名称通り、資格予備校などを運営する東京リーガルマインドが開設しました。

2003年、規制緩和の一環で、それまで学校法人のみに設立が認められていた大学が特定非営利活動法人と株式会社の参入が認められます。

規制緩和初年度、かつ、参入第1号ということもあり、通常の審査は7カ月かかるところ、同大は3か月で認可が下ります。

当初は東京と大阪にキャンパスがあり、通信教育課程として、全国12か所にもキャンパスがありました。

もっとも、キャンパスはテナントビル内の中で、教員の研究室がない、運動場がないなど、ないないずくめ。

開設翌年以降には、国会でも大学の改善を求める質問が相次ぎます。

系列の予備校生と学生が同じ授業を受けているなどのずさんな実態も判明。

結果、2009年には一度、通信教育課程の地方キャンパスと大阪キャンパスを閉鎖、東京キャンパスだけに集約します。が、それでも低迷し、結果、学部生の募集は停止することになります。

なお、大学院は存続し、大学を廃校とした2013年にLEC東京リーガルマインド大学院大学に改称しています。

株式会社立大学は、2023年現在、4年制大学としては、デジタルハリウッド大学(2005年開設)、ビジネス・ブレイクスルー大学(2005年開設)、サイバー大学(2007年)の3校が存続しています。

◆デリバティブ取引で大損し廃校…神戸夙川学院大学

●神戸夙川学院大学

開設:2007年

募集停止:2014年

廃校:2015年

学部:観光文化学部

立地:三ノ宮駅からポートライナーで14分・みなとじま駅下車、徒歩6分

解説:神戸夙川学院大学は神戸の中心部から20分圏内のポートアイランドにキャンパスのある、好立地の大学でした。

観光文化学部の単科大で、観光に特化した学部で1・2年目から充足率は100%超えと順調な滑り出しです。2009年~2011年は充足率120%超となり、このまま順調に行くかと関係者も安堵していたことでしょう。

ところが、観光系学部がそんなにも学生を集めるなら、ということで競合相手が増えていきます。

2011年に関西国際大学人間科学部経営学科が新設、コースの一つとして観光・ツーリズムコースが開設されます。2013年も神戸山手大学が学科を再編、観光学をコース(大学の呼称はフィールド)の一つとします。大阪府を含む他地域でも観光系学部やコースが増えていった結果、単科大学である神戸夙川学院大学は志願者数が減少、2012年から定員割れとなります。

ここまでなら、後編に登場する都市型に分類されます。

神戸夙川学院大学が募集停止となった決定打は大学財政の大幅な悪化でした。デリバティブ取引で大きな損失を出してしまいます。

地元紙・神戸新聞記事によると、

「11年には同窓会名義の預金から約1億6千万円の無断流用が発覚。短大の教職員らの給与や賞与など約7億円の未払いや、教職員の互助団体の積立金を高校の部活動の遠征費に無断で流用していた問題などが次々と明るみに出た」

※神戸新聞2014年4月18日朝刊「神戸夙川大 資産運用失敗後に経営問題次々」より

と、あるので、相当ひどい状態でした。

2014年3月には、日本高等教育評価機構による大学機関別認証評価(2013年度)で「不適合」と判定されます。この中でも大学財政について、「財務基盤は大きく崩れており、借入金返済計画も不透明で、現在の財政計画は実行性に乏しく、財政は極めて危機的状況にあり」と厳しい指摘があります。

経営破綻し看板が外されるリーマン・ブラザーズ。リーマンショックの影響で神戸夙川学院大学が募集停止に
経営破綻し看板が外されるリーマン・ブラザーズ。リーマンショックの影響で神戸夙川学院大学が募集停止に写真:REX/アフロ

この不適合判定の1か月後、4月に募集停止を発表します。

入学定員充足率は2013年が76.1%、2014年が78.5%で、他大学ならまだ巻き返しが可能な水域にあった、と言えるでしょう。

しかし、小規模校、しかも借入金が大きい中では募集停止しか道はありませんでした。

その後、大学は数奇な運命をたどります。同年7月、神戸山手大学が学生・教職員も含めて継承することを発表。2015年に神戸山手大学現代社会学部観光文化学科となります。そのため、通常の募集停止であれば、卒業者が出るまで存続するところ、神戸夙川学院大学は2015年に廃校となりました。

キャンパスはポートアイランドから神戸山手大学のある兵庫県庁の近隣(神戸市営地下鉄県庁前駅から徒歩5分)に移転します。

ポートアイランドのキャンパスは神戸学院大学が購入、現在も利用しています。

学部を継承した神戸山手大学でしたが、こちらも学生集めに苦戦。2020年、関西国際大学に吸収合併されます。事実上の廃校ですが、こちらは学部譲渡であり、募集停止とはなっていません。現在は関西国際大学国際コミュニケーション学部(キャンパスは神戸山手大学をそのまま使用)として存続しています。

◆都市部立地でも競争激化で敗北

廃校・募集停止となった大学については、地方の立地が特徴とする記事がありました。

私も当初はそう考えていたのです。しかし、改めて分析すると、入学が期待できる高校生の数そのものが少ない、という意味での地方立地が敗因だった大学は前記の通り、3校のみ。

そして、運営のまずさが大きかった不祥事型が3校。残り、10校は東京都3校、兵庫県2校、広島県1校、福岡県4校で、いずれも、都市部にあります。

この9校は地方の立地が敗因というよりも、都市部の立地、競争の厳しさが敗因です。

さらに、都市部だからこそ、ちょっとした立地の違いが受験生に敬遠されることになりました。

この都市型9校、分析していったところ、さらに3グループに分けることができます。

●都市型・他大学競合グループ

福岡国際大学

東京女学館大学

広島国際学院大学

恵泉女学園大学

都市部に立地。他大学との競合が厳しく募集停止に追い込まれたグループ。

上記4校が該当します。

●都市型・専門学校競合グループ

神戸ファッション造形大学

保健医療経営大学

上野学園大学

同じ都市型でも他大学競合グループと異なり、専門学校との競合で募集停止に追い込まれたグループです。上記追記校が該当します。

●都市型・グレーグループ

東和大学

福岡医療福祉大学

聖トマス大学

不祥事型とまでは言えなくても、募集停止前後のトラブルが目立ったグループです。上記3校が該当します。

この10校のうち、他大学競合グループ4校・専門学校競合グループ3校については、中編、グレーグループ3校については後編で公開しました。

後編は、個別解説のほかに、学部名、大学名、期間の観点からも分析しています。

最終章(2023年4月中旬~下旬公開予定)では、情報公開の観点からの分析、私立大約半数の定員割れの虚実、私立大新設抑制と未来予測について掲載します。

本稿の関連記事

募集停止・廃校となる大学は何が敗因か~16校の立地・データから分析した・中編(2023年4月4日公開)

募集停止・廃校となる大学は何が敗因か~16校の立地・データから分析した・後編(2023年4月10日公開)

募集停止・廃校となる大学は何が敗因か~16校の立地・データから分析した・最終章(2023年4月18日公開)

女子大氷河期サバイバル~私立女子大65校の未来像をデータから検証(2023年3月5日公開)

出生者80万人割れでも大学が潰れないカラクリ~2040年には大学進学率80%超えも(2023年3月1日公開)

追記(修正/2023年3月30日16時50分)

松阪市・松阪大学を「松坂市」「松坂大学」と誤記していたので修正します。

ご指摘いただいた @tashirocket 様、ありがとうございました。

追記(修正/2023年3月30日22時35分)

募集停止の一覧に上野学園大学(2020年募集停止)を入れていませんでした。そのため、表を修正したうえで、タイトル・本文の「15校」を「16校」に修正しました。

ご指摘いただいた @yhmauo9f0me6 様、ありがとうございました。

追記(修正/2023年3月31日7時40分)

愛知新城大谷大学の項目で「健闘」を「検討」と誤記していたので修正します。

ご指摘いただいた @fogetmenotjp 様、ありがとうございました。

同時に、Yahoo!ニュース個人編集部からの指摘により、一部表現・誤字を修正しました。

追記(加筆/2023年4月4日10時)

前編・後編と2分割予定のところ、3分割となり、中編記事を公開したので、一部修正・加筆しました。

追記(加筆/20234月10日21時10分)

3分割予定のところ、4分割となり、後編記事を公開したので、一部修正・加筆しました。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

教育・人事関係者が知っておきたい関連記事スクラップ帳

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この有料記事は2つのコンテンツに分かれます。【関連記事スクラップ】全国紙6紙朝刊から、関連記事をスクラップ。日によって解説を加筆します。更新は休刊日以外毎日を予定。【お題だけ勝手に貰って解説】新聞等の就活相談・教育相談記事などからお題をそれぞれ人事担当者向け・教育担当者向けに背景などを解説していきます。月2~4回程度を予定。それぞれ、大学・教育・就活・キャリア取材歴19年の著者がお届けします。

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