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努力だけでは越えられない「親が貧乏だと進学も就職も結婚すらできない」子どもたちの未来

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

親が子に受け継ぐもの

2021年、「親ガチャ」なる言葉が話題になり、流行語大賞にもノミネートされた。その言葉の是非はともかく、「生まれ育った家庭環境によって、子どもの将来はある程度決定されてしまう」という残酷な事実は確かに存在する。日本より格差が激しいアメリカにおいては、もはや親の所得による身分制・階級制が成立しているかのようでもある。要するに、裕福な家の子は裕福になり、貧乏な家の子は貧乏になるということだ。

所得を決定づける重要な要因として学歴がある。高学歴じゃなければ金を稼げないとは言えないが、大部分の人にとって、学歴と生涯稼ぐ所得というのは、統計上は強い正の相関がある。学歴別に生涯賃金を比較すればそれは明らかである。

厚労省の賃金構造基本統計調査の「退職金を含めない学歴別生涯賃金比較」によれば、大企業に就職した大卒男性の生涯賃金は約3億1000万円。対して、大企業に入った高卒は2億6000万円で、同じ規模の会社に入っても、大卒と高卒とでは生涯賃金に5000万円の差がつくことになる。さらに、小さい企業に入った高卒の場合は、生涯賃金は1億8000万円に下がるので、大卒大企業就職組と比較すると、ほぼ倍近い1億3000万円もの差が開いてしまう。女性においても、この傾向は一緒である。

つまり、裕福な親というのは、ある程度の高学歴であったということを意味する。

貧乏の遺伝子、裕福の遺伝子

親の学歴や所得は、子の学力に関係ないのでは、と思われるかもしれないが、残念なことに大いに関係がある。文科省の平成29年度「学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」にもある通り、親の世帯所得が高ければ高いほど、子どもの学力成績は良くなる傾向がある。事実、東大に合格した子の親の所得は、950万円以上で6割以上を占める(2018年学生生活実態調査より)。

「学力が伸びないのは本人の努力が足りないからだ」という人もいるがそうとは言えない。本人のあずかり知らぬ親の学歴や所得の影響も大きいのだ。良い大学に行ける子は親が裕福だから行ける。本人の環境の問題であり、本人の努力だけの問題ではない。

写真:アフロ

たとえば、どんなに優秀で医学部に行きたいと子が願っても、貧乏な親ではその学費を払うことは不可能である。親や子の希望や意志や努力とは関係なく、貧乏遺伝子や裕福遺伝子によって人生が決まるということである。

そればかりではない。親が貧乏なら、その子は結婚すらできない。

親が貧乏だと結婚もできない

親の所得状況とその子の未婚率とを調査すると、特に男性においてその影響は大である。男性に関しては、親の貧乏度が増せば増すほど未婚率は高い。特に、親が貧乏である30~40代の男性の未婚率が抜きんでて高い。

(c)荒川和久
(c)荒川和久

婚活の現場では500万円以上の年収が「普通の男」とみなされる「浮世離れ理論」が幅をきかせていたりするが、そもそも世の結婚適齢期男性未婚者の年収は200万~300万円がボリュームゾーンである。結婚を支援する現場が、結婚したいボリューム層を足切りしてしまっているのだから、婚姻数が増えないのは当然だろう。

婚活現場の「普通じゃない」普通

「高望みはしません。年収500万円くらいの普通の男でいいです」という考えが、もう「普通じゃない」件

デフレ不況の落とし子たち

第二次ベビーブーム期の1970年代に生まれた世代が、まさに今現在大学生の年頃の子どもを持つ親世代である。

平成になって彼らが就職してからの30年間というもの、親世代の所得がまったく増えない「給料デフレ時代」に突入したことは間違いない。そのしわ寄せは、確実にその子どもたち世代に襲い掛かり、本人の意志や努力とは関係なく、若者たちは、進学も就職も結婚すらままならない「目には見えない重荷」を背負わされて歩かされているようなものだろう。

「たとえ、貧乏でも家族が仲良く、毎日笑ってすごせればいいよね」という意見もあるかもしれない。が、親が貧乏であるというだけで、「大学に進学できない→大きな企業に就職できない→給料が安い→結婚もできない」という地獄のルートが確定してしまうのは、子にとって厳しすぎる。

写真:アフロ

親もまた被害者

「結果の平等」はないが「機会の平等」はあるという人がいるが、本当だろうか。機会すら与えられない子どもたちは山ほどいる。進学したくてもできない、やりたい仕事にもつけない、結婚したくてもできない、そうした声にならない叫びが埋もれているのだ。もちろん、それを親世代の責任であると断じるつもりはない。親世代もまた被害者だからである。

未婚化や非婚化の問題を、「草食化」など若者の意識の問題や出会いがないという問題だけに矮小化してしまうと本質的な問題を見失う。2世代にわたって、50年前からくすぶっていた経済構造上の問題が今まさにここで顕在化しているとは言えないだろうか。

余談

こういう記事に対して、「俺も家は貧乏だったけど努力して勉強して大学行ってバイトしながら卒業して~」という苦労話にかこつけた自慢話おじさんや「そんなんだからダメなんだよ」という説教おじさんが沢山わいてくるかもしれない。記事では便宜上「貧乏な親」呼称を使用しているが、大部分の親は、自分のできる範囲の中で、あるいは多少の無理をしてまでも、子どものために精一杯の努力をしていると思う。しかも、それを子には悟られないように、無理してると思われないように。

それでもできることには限界がある。

それは個々人に与えられた、いかんともしがたい「生きる環境」の違いの問題なのであって、個人の努力が足りないという自己責任論で追い詰めることは的外れだろう。それは子どもたちに対しても同じだ。

がんばるためには環境が必要なのである。

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※記事内グラフの無断転載は固くお断りします。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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